「テニスやってたなら余裕でしょ?」という慢心からのスタート

週末は市民大会に出場し、平日の夜も週に1〜2回はインドアコートに通っていたテニス歴15年の私。そんな私が、アメリカ発の新しいラケットスポーツ「ピックルボール」に出会ったのは約2年前のことでした。

「コートはテニスの約1/3、ネットの高さもほぼ同じ。ボールを打つ競技なら、初日から無双できるんじゃないか」——正直に白状すると、そんな甘い見通しを持って体験会へ飛び込んだのをよく覚えています。

しかし、ゲーム開始からわずか10分後。私は見事に鼻っ柱を折られることになりました。テニス経験者なら誰もが一度はぶつかる「特有の壁」に、私も見事に激突したのです。

テニス経験者が直面する3つの大きな壁

ピックルボールは、道具こそラケット(パドル)とボールを使いますが、ゲームの物理法則と勝敗を分けるセオリーがテニスとは根本から異なります。私が最初に苦しんだのは、主に次の3点でした。

1. 力強いストロークがことごとく「罠」になる

テニスで身につけた「しっかり下半身を沈めて、大きなテイクバックから振り抜くトップスピン」。これがピックルボールではほぼ通用しません。プラスチック製の穴あきボールは空気抵抗が大きく、強く打ってもテニスのように伸びないのです。むしろ、ベースライン深くに強打を打ち込むと、相手にとっては格好のボレーの餌食になり、簡単にカウンターを食らって失点につながります。

2. ノンボレーゾーン(キッチン)の存在

ネット前2.1メートルのエリア「ノンボレーゾーン(通称キッチン)」では、ノーバウンドでボールを打つことが禁止されています。テニスのアプローチショット感覚でネットに詰め寄り、そのまま前へ飛び出しながらボレーを叩き込もうとすると、100%フットフォール(反則)を取られます。体にしみついた前進の慣性を止めるのは、想像以上に過酷でした。

3. 「ハードヒット」より「ソフトタッチ」が強い世界

相手の足元に柔らかく沈める「ディンク」や「サードショットドロップ」。テニスでは滅多に使わない、脱力したスライスタッチやロブ気味のコントロールショットこそが最強の武器になるという事実を受け入れるのに、少し時間がかかりました。

壁を乗り越えるために意識を変えた3つのポイント

「このままテニスの延長でやっていても勝てない」と痛感した私は、プレースタイルを根本からリセットすることにしました。具体的に意識を変えたのは以下の点です。

  • テイクバックを「肩幅以内」に抑える:パドルを体の後ろまで引くのをやめ、胸の前で小さくセットするイメージに修正しました。これだけで相手の速い返球に振り遅れなくなり、ミスが劇的に減りました。
  • 「打ち抜く快感」を捨て、「相手に打たせる忍耐」を覚える:力任せにウィナーを狙うのではなく、相手のキッチン内に優しく落とし続け、相手が我慢しきれずに持ち上げてきた球だけを確実に仕留める。この我慢比べの面白さに目覚めてから、勝率が一気に跳ね上がりました。
  • キッチンのライン手前で「ピタッと止まる」足の使い方:前にダッシュするのではなく、スプリットステップのように両足をしっかり揃えてライン手前でブレーキをかける練習を繰り返しました。

テニス経験は、壁を越えた瞬間に「最強の武器」へ変わる

ここまで「テニスの癖が邪魔をする」という話をしてきましたが、決してテニスが無駄になるわけではありません。フットワーク、動体視力、ボールのバウンド位置を予測する空間認知力は、未経験の方に比べて圧倒的にアドバンテージがあります。

「強く打つのをグッと堪えて、優しく落とす」というピックルボール特有の呼吸を掴んだ瞬間、今まで邪魔になっていたテニスのボレー技術やハンドアイコーディネーションが、一転して最大の武器として噛み合い始めます。

もし今、テニスの癖が抜けずにコートで歯がゆい思いをしている方がいたら、ぜひ一度パドルを握る手の力を半分に抜いてみてください。コートの広さの見え方が、ガラリと変わるはずです。